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盗まれた記憶の博物館

070801book.jpg

本を読んでいた。とても面白い本だった。

人々の記憶を自在にあやつり消すことのできる古代バビロニアの邪神・クセハーノが現代ベルリンに甦った。忘れ去られ、捨て去られた者・物は「クワニシア」という記憶の国に行く。クセハーノはその記憶の国への門(イシュタル門)を自由に操ることで、忘れてはならないものや記憶を強制的にクワニシアへと連れ去り、徐々に力を取り戻してやがて実在の世界をも恣意に操ろうと目論んでいる。

主人公はオリバーとジェシカという双子の少年少女。クセハーノの陰謀に気づきイシュタル門をくぐってクワニシアへと消えた父の足跡を追うことで邪神の企てを暴こうとする過程で、2人は、物や人の思い出とはいかなるものか、記憶とはいかなるものか、夢とはいかなるものかを改めて確認し精神的に成長していく。そんな物語である。

クワニシアとの行き来は、そのモノ(者・物・記憶)の本質を知り真の名前を理解する者だけが可能である。また、そのことが最終的にクセハーノと対決するときに重要なカギになる。その過程において、記憶というものの本質を良い意味でも悪い意味でも明らかにし自身で受け入れることができるかどうかが大切なのだと筆者は説いている。

070801unicorn.jpg少年少女が主人公の子ども向けの児童書ということだけど、本書の中身は子どもがその観念の背景まですべてを理解するのははっきり言って難しいだろう。単なるファンタジーのように読もうと思えば読めるから子どもでも楽しめる、という意味において「児童書」という範疇に一応入れることは可能だろうけど、深く読めば、ファンタジーというオブラートに包まれた寓意小説(それもかなりシニカルな)と解釈するのが正しく、大人でも十分に楽しめる作品となっていると思う。
右のは本書に重要な役で登場する一角獣(ユニコーン)のイメージ画。ローマ・ファルネーゼ宮のものを拝借してきた。

作者はRalf Isau(ラルフ・イーザウ)というドイツ・ベルリン生まれの作家で、「モモ」「はてしない物語」で有名なミヒャエル・エンデに見いだされてその才能を高く評価されたという人。古代の神話や社会・心理学にも通じていると見えるその作風から感じる人物像は、かなりのクセモーノである。他に「ネシャン・サーガ」というベストセラーもあるそうだから、機会があればそちらも読んでみようと思う。
訳者は酒寄進一氏。本のカバーイラストは佐竹美保さんで、これが美しい装幀となっている。上下巻を立てて並べてみると両方の背表紙にまたがってイシュタルの門が描かれているという仕掛けも面白い。

ちなみにこの本、近所の児童館の貸出図書にあったので借りてきたものである。他の本は貸出の出入りがかなり激しいのに、この本だけ今まで誰にも借りられた履歴がなく、忘れ去られたようにほぼ新品のままそこにあった。
まさしく、まもなくクワニシア行きとなるところだったに違いない。


Comments:11

sekisindho 07-08-01 (水) 1:39

107さん、こんばんは。
「盗まれた記憶の博物館」初めて眼にする本です。
眠り姫だとかのように子供向けのお話と思ってたものが実は大人向けの深い意味を持つお話であることはよく散見されます。
このお話の場合の幻の獣、一角獣はどんな役割なのでしょう。
カバーのイラスト同様興味を引くテーマ、内容のようですね。

みどり 07-08-01 (水) 21:02

こんばんは♪
わぁ、ラルフ・イーザウ!。
この方の本は、面白いですね。
「ネシャン・サーガ」いいですよ〜。
私も大好きです(*^_^*)。

107 07-08-01 (水) 22:16

△ sekisindho さん
こんばんは〜
なかなか面白い本でしたよ。
見るからに「児童向け」ではなく、読んでて「これ子どもが読んで分かるのかぁ」みたいなこともあるぐらいで、むしろそういう子どものいる親世代に向けて書かれているようにも感じました。
一角獣はその神秘的で強靭そうなイメージ通りの役どころでしたよ^^
この絵をいれるとどこかのブログみたいだなぁ〜、と自己満足してました(笑
△ みどりさん
こんばんは、さすがご存知ですね〜♪
みどりさんのおっしゃる「ゆきてかえりし物語」と「子どもの魂の成長」というファンタジーの原則・王道をきちんと踏襲したいい作品でした。エンデの「果てしない物語」と似たテーマであるようにも感じますが、「記憶」ということへの追究は本書の方がより深いと思います。
「ネシャン・サーガ」見つけたら読んでみますね!^^

メディック 07-08-02 (木) 10:55

この本知りませんでした。
でも自分は昔ユニコーンズにいました。
背中に白一色の一角獣がプリントされた真っ赤なウィンドブレーカーも持っていました。
しかし、不思議な事にそれが何の集まりだったのか、全く覚えていません
(いや〜 これマジで!)
おそらく、クセハーノさんに記憶を消されたのだと思います・・・

107 07-08-02 (木) 20:37

△ メディックさん
なんでしょうユニコーンズ。
そんな派手なウィンドブレーカーでユニコーンと繋がる集団のイメージがまったく浮かびません。なんとなくポロのクラブとか?(笑
こりゃやっぱりクセハーノの仕業ですぜ!

森の音 07-08-02 (木) 22:21

107さん、こんばんは。
面白そうな本ですね。
あらすじだけうかがっても、難解そうな寓話です。
記憶はなくては困りますが、
ありすぎても頭がパンクしてしまいます。
そして忘却というのもとても大事な脳の働きだと思います。
つらいこと、嫌なことを忘れるというのは、
心の防御反応としてはとても有効な作用だと思いますが、
いずれ人生のどこかで引き出してきて、
対峙しないとそれを真に乗り越えたことにならないのでは・・・
そんなことをこの記事から連想しました。
もし見当違いなら、クワシニア送りにしてください。

オードリー 07-08-02 (木) 23:35

すごい。表紙からして迷宮!
チャンスを見つけて探してみます。。。。
しかし、絵本でいっぱいいっぱいの私^^;
ステップアップしなくては。。。
 
姫達は夏休みはいかがですか?
我が家は毎日宿題のあらしです^^。

107 07-08-03 (金) 1:01

△ 森の音さん
こんばんは、有難うございます。
> いずれ人生のどこかで引き出してきて
さすが、ご慧眼。ご明察。
それがバックに流れるテーマであると見えます。
クワニシア送りなんかではなく、クセハーノと対決していただきたく思います(笑
寓意はかなりとんがってますが難解なことはなく、筆者はかなり上質のストーリー・テラーであります。
とても楽しく面白く読めましたよ。
△ オードリーさん
絵、きれいでございましょ^^
字を追って想像力を自由に飛翔させるのがボクの息抜きのひとつなのです。いい物語には、いい精神浄化作用もあるように感じます。絵本であれ物語であれ、好きな読み物で脳を解放してやるのがいいのだろうと思います。
姫たちはめいめい好き勝手に過ごしております。まだ一年坊なので(一年嬢か・笑)そんなに宿題の量もなさそうですよ。有難うございますね^^
オードリーさんも、おつかれさま♪

マロニエのこみち・・・。 07-08-03 (金) 7:50

>その作風から感じる人物像は、かなりのクセモーノである
読者さんとあい通じるものが・・・?(笑
一角獣のページを開いた瞬間、あれ?いつもの別のところにきてしまったのかなあ・・と思いましたよ^^
こっちの絵も素敵ですね
そちらの図書館は空いていますか?
これからの季節、いいですね♪

konatsu 07-08-03 (金) 8:38

おもしろそうと思って図書館の予約状況を見たら借りれる頃には夏が終わってます(泣)
夏休みだからでしょうか?
モモ、懐かしいです。時間泥棒でしたっけ?また読んでみようかな☆

107 07-08-03 (金) 22:10

△ マロニエのこみち・・・。さん
有難うございます♪
> 読者さんとあい通じるものが
何をおっしゃいますやら。ウチにお越しいただく皆様方それぞれ、
個性強くして魅力あふれるクセモーノさん揃いだと・・・(*´∀`)
この一角獣のような高尚な絵を入れると、雰囲気がそれとなくでしょ(笑
本を貸し出してくれる児童館が近所にあって、ときどき子どもが遊びに行ってるのです。
暑い日は家にいて本でも読んでるのが心地いいです^^
△ konatsu さん
「モモ」ご存知ですね^^
この作品の作者もエンデと同じドイツ人で、作風もどこか似たところがあります。「モモ」や「はてしない物語(ネヴァー・エンディング・ストーリーと書いた方が分かりやすいかな。映画化もされてます。テーマ曲はリマール。懐かし〜)」をもう一度読み返すのも悪くないかも。
konatsuさんは長い夏になりそうですね。
くれぐれもご自愛のほど^^

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