Home > 釣りにまつわるよもやま | 2007年の釣り > 逢魔が刻

逢魔が刻

070610iwana1.jpg

渓の薄暮は逢魔が刻。

太陽が山の間に沈み、空が青から橙、そして暗青色へと劇的に変わる。渓の畔では森が急激に見通しを失う代わりに、動物の気配が濃密になる。ノウサギの跳ねる音、森の向こうで悲鳴のように響くカモシカの鳴き声、その他、得体の知れない気配や物音がそこここにする。渓に独りで立っていると急に不安に襲われて、なにか怖いものから逃れるように急ぎ足でクルマに帰りたくなる衝動にかられる。すべてを照らしてくれた太陽が姿を消し、辺りを支配する法則が明らかに変わったと確信する瞬間、それが「逢魔が刻」である。

渓の上では風の向きが変わり、水面が空を映す色が妖しく変化する。やがて水生昆虫の大量の羽化が始まり、動物が動き始めるのと同様にサカナも動き始め、羽化する虫を活発に摂餌して黒い水面に白いリングを作る。この季節、一日のうちでもっとも大きなサカナが釣れる確率の高い時間。ボクたち釣人はその時間を特に「夕マヅメ(ゆうまづめ)」と呼ぶ。

先日の水曜日にまたもや北陸まで遠征して、今年初めて、朝から夕マヅメまでみっちり釣りをした。もちろんずっと寝ずにというのは無理なので、昼から夕方までたっぷりと昼寝をした。運良くその間に雨が降って止み、午前中はやや渇水気味だった渓が夕マヅメの釣りを始めるときには頃合いに増えていて、サカナの活性も上がっているだろうと予感できた。

同行者2人とは離れた場所に独りで入り、小さな堰堤の落ち込みに狙いをつけてサカナの動き始めるのを待つことにした。やがて夕マヅメとなり、大量の水生昆虫…カゲロウやトビケラ、大型のカワゲラが辺り一面を飛び交うようになったので、そろそろ、と思いながら水面を注視する。しかし、待てど暮らせどリングは見当たらない。水面を割るライズはしないものの水面下でなにか動く気配はないかと全身の神経を集中してポイントのあちこちを見渡してみるが、それらしい様子はない。さてはポイントを見誤ったかと半分落胆した気持ちで、しかし諦めきれずにフライを流してみることにする。2投、3投と、わずかに残った光の中でほのかに白く見えるフライはドンピシャの流れをトレースしている筈なのに、サカナは出ない。

夕方の雨の後で、生暖かさの中に冷たい湿気が混ざった何ともいえない空気が肌にまとわりつく。視界の端に映る渓の畔の森が妖しくゆらめいている。と、さらに一段、暗さが増す。冷たい空気が首筋に流れ込んでくる。

逢魔が刻・・・

その畏れを振り払うように、白泡の切れ目をめがけてもう一度キャストする。ツツーとフライが流れてきていい流速になった、と、そのとき、水面にリングが広がってフライがフッと消えてなくなった。こういう静かな食い方をするのは、決まってグッドサイズである。若いサカナのように喜び勇んで水面を割って出るようなことは彼らはしない。じっと流れてくるものを見極め、絶妙のタイミングで浮上してきて大した労力を払わずに静かに吸い込むのである。クイッとラインを張ると、ドスン!と乗った。

重かった。ランディングするまで、記憶の中では長い時間やりあった。ネットに収めてみると尺はありそうな、しかも体高・体幅いずれも高く太く、申し分のないコンディションのいいイワナだった(上の写真)。暗くて見にくいかもしれないが、光量のない時間のサカナの雰囲気を感じていただこうとフラッシュをたかずに撮ってみたものだ。撮りながらいろんな角度からサカナを見て、その精悍な顔つき、体つきに圧倒される。口の中に指を突っ込んでみるとちょりちょりに尖った歯がズラリと生えていて指の皮がささくれる。目が妖しく光り、こちらを睨みつける。

今日はもう充分。そう思った。まだ釣りをしようと思えばできる光量は残っているが、でも今日はもうやめておこう。午前中、明るい時間にも泣き尺のいいイワナが釣れている。次はしばらく来れないかもしれないけれど、それでも今日はこれで仕舞いにした方がいいと感じたのは、逢魔が刻に対する漠然とした畏れからだけではない直感が働いたためだと言っておこう。
街まで下りて、焼き肉で祝杯をあげることにしよう。今日は懐かしい友人も一緒だ。

今年初めての夕マヅメの釣りは上出来だった。今日はそれでいい。充分。いい一日だった。
また次に来るとき、ボクを楽しませておくれ。

オマケの写真↓は、昼間に釣った分厚い泣き尺イワナ。
070610iwana2.jpg
 


Comments:14

piro55 07-06-10 (日) 0:52

こんばんは!
イワナ。こんなにきれいなサカナだったんですね。
「辺りを支配する法則が明らかに変わったと確信する瞬間」。
体感してみたいと思いました。
「逢魔が刻」の恐ろしさを味わい知りながら釣りを楽しみ
「今日はそれでいい。充分。」と言える潔さ。
有限である自然に対して忘れてはいけない感覚のような気がしました。
リールというのでしょうか、おしゃれですね!!可愛い!

ひぐちあきお 07-06-10 (日) 10:10

こんにちは。
お見事な岩魚。眼福であります。
動く魚をフラッシュなしで撮影するのって、大変でしたでしょ?
ぼくは、この時季から無精にも「逢魔が刻」だけの釣りをしに行きます。首都圏から近いため、どの川の魚たちも大勢の釣り人にいじめられてすっかりスレてしまい、昼間はびくびくして水底に隠れているからです。
目が悪いので、どうしても白系の毛鉤になります(CDCダンも)。
大物は真っ暗になってからライズを始めるので、水面の毛鉤がほとんど目視できない暗がりの中での釣りです。目の中心で見ると盲点があるので、毛鉤は視界から消失します。けれどもわずかに視線を外してやると、不思議に毛鉤がちゃんと見えるんですね。
わずかな飛沫も見逃さず、すかさず合わせないとなりませんが、出るとでかいのがうれしい。そんな逢魔が刻通いは、なかなかやめられませんです。熊のリスクもありますが(汗)。

Solo 07-06-10 (日) 16:19

こんにちは、「逢魔が刻」の釣り、の結果に本当に脱帽です。
すばらしいイワナですね。
マヅメのつりというはあまり経験がありません、いつも一人で釣行ですのでいくら遅くてもマヅメ寸前で切り上げてしまいます、やはり大物に出会うにはもう少し根性が要りそうです。
いや、それにしましても本当に見事なイワナです。

みやび 07-06-10 (日) 16:28

夕マヅメの釣りをしていると急に心細くなる事、有ります有ります。周りを囲む河畔の木々が、急に敵に寝返ったように感じる時が。昼間はあんなに明るい緑だったのに、なんでそんな真っ黒になって脅かしてくるんだよぅ。みたいなのが。
でも大物の警戒心が薄れる時間帯、止められませんよねぇw

107 07-06-10 (日) 22:44

△ piro55 さん
こんばんは。
イワナ、きれいでしょ^^
「逢魔が刻」体感してみたいですか・・・怖ぁいですよぉ〜(*´∀`)
少なくとも、うら若き女性が独りでいるべき場所ではありませんです。
自然は有限、まさしくおっしゃる通りです。
カッコよく言えば、その気持ちがあって切り上げた・・・なんですが、本当はただひたすら怖かっただけかも(笑
リールの彼女、可愛いでしょ^^
以前に仮の名を「ジャンヌ」と名付けましたが、あれからホントの名前をきちんと付けてあげました。
「フランチェスカ」
お見知りおきを^^
△ ひぐちあきおさん
こんにちは。
大変でした!それでなくても暗闇で撮影が大変なのに、このイワナ、めちゃくちゃに怒り狂っていて暴れるのなんのってそれはもう・・・(´A`)
「逢魔が刻」にでも彷徨う価値がこの時季の渓流釣りにはありますね。魅力と怖さと、綱の引き合いせめぎあいです。
夕マヅメの釣りしてるときの目・・・分かります分かります(笑
ボクは多分、両側に広げるタイプで・・・あ、こういうの言っちゃいけない言葉になるんでしたっけ。ともかく、人さまにはお見せできないご面相で釣りしてます。具合よく、闇がボクの内に巣食う「魔」を覆い隠してくれています(笑
△ Solo さん
ひと足お先に〜〜^^
来週、Soloさんにはパラダイスの釣りが待ってるそうで、いいではありませんか!
(と、さりげなくプレッシャーを・・・笑)
北海道の夕マヅメを独りで、なんてボクには無理。ツキノワグマとヒグマじゃ、貫禄が違いすぎます。
この記事をお読みになったからといって、くれぐれもご無理をなさらぬよう・・・^^
△ みやびさん
ありますでしょ〜^^
なんで急に、と思いますよね。
でもああいう時間だから、渓の中に潜む「魔」・・・大物も出てくるのでしょう。
いずれの「魔」に逢うか、遭うか。
ドキドキして、やめられませんねぇ(笑

JIMO 07-06-10 (日) 23:47

このイワナ・・・頭が小さくって、まだまだでかくなりそうですね。
私、夕マズメの釣りってあまりやらないです。
帰り道が怖いし、ハッチに夢中になった魚はルアーなんぞ見向きもしません。(笑)

sekisindho 07-06-11 (月) 0:11

107さん、こんばんは。
ゆうまづめは逢魔が刻、百鬼夜行に会わなかったですか!
以前、奥日光の湯西川にお葬式で行ったことがあります。
バス停の終着からさらに車で20分ほど奥まったところに旅館が一軒あり、お通夜の帰りに旅館までの10分ほどの長かったこと。
獣の気配、もののけの気配にず〜っと追いかけられたような気がしたものです。
渓流の釣りは明け方のものだとばかり思ってました。
ゆうまづめの逢魔が刻に敢えて挑戦すればそれだけの成果が期待できるわけですね。
でも鬼達を怒らせないよう十分お気をつけください^^

107 07-06-11 (月) 23:34

△ JIMO さん
ここの渓のイワナはみな、デカくなります。過去の最大は50オーバーってのも。
もちろん、ボクが釣ったのではありませんが・・・(^ ^;
夕マヅメ、ルアーは難しいかもですね・・・
いいのが活性上がるんですけどねぇ・・・^^
△ sekisindho さん
山の夜は怖ざましょ〜〜(´A`)
> 渓流の釣りは明け方のもの
エサ師の人は、きっとそういう感覚なんじゃないでしょうか。サカナが水面を意識してライズする夕方には、沈めて釣りするエサ釣りには不向きだと考える人が多いのじゃないかと思います。
森の鬼や物の怪も怖いですが、何を隠そう、実は一番怖いのは自分自身の中に潜むそれらです。自然の中にいると、無垢なだけに己が心の内もはっきりと見えてしまいます。

noobooboo 07-06-12 (火) 3:07

刻々と夜が迫ってくる様子・・・まるで千と千尋の神隠しの世界ですね。。
こちらは夜九時でもまだ明るくて、暗くなったな〜って思うのは10時近く。夕飯を食べてからの暗くて落ち着いた時間がなかなか来ないんです。何事もほどほどがいいですね・・・。
しかたないから?最近はビール片手にまだ明るい外へ、夜の散歩にでかけます。これがなかなか気持ち良くてやめられないんですよ^0^

マロニエのこみち・・・。 07-06-12 (火) 18:38

自然の美しさや空気感を身近に体感できて、
お魚の彼女と出会える素晴らしさはあるのでしょうけれど
こうして拝読していると、釣りの世界もなかなか精神修行の場なんですね
熊とか狼とかその他もろもろ、出てきても全然おかしくない雰囲気ですね
107さんって、Sなのかなぁ・・と勝手に思っていたのですけど
Mだったんだぁ・・・って、妙に納得しています(爆・・

107 07-06-12 (火) 20:06

△ noobooboo さん
そう、ホントに千と千尋のあの最初のシーンのような、日が落ちて影になり暗くなった闇から次々に魔が・・・ってな感じです。怖いですよ〜(*´∀`)
夜遅くまで日が落ちないのも困ったものですね。
・・・あ、でも夕マヅメが長い、ということか!それはいいかも(笑
近頃すっかりお酒好きなnooboobooさんですねぇ( ´,_ゝ`)
△ マロニエのこみち・・・。さん
そうですよ。修行に出かけているのです。決して遊びに行ってるのではありません(笑
熊はとても怖いですが、狼はどうでしょ。いないですから・・・
むしろ満月の夜、空にぽっかり浮かぶ月を見上げて「るをををををぉ〜〜ん」と叫び、突如として自分が狼男に変身してしまうのが恐ろしいかも・・・(´A`)
SでもありMでもあり・・・TPOに応じてバランスよく制御しております。ここにお越しいただく幾人かの長女Aの皆様がたのようにドの付くSでは、ありません・・・(ひぇえ〜お許しを〜

森の音 07-06-12 (火) 22:22

参りました。本当にいつも目の毒です。
こんなのを見ると、釣り行きたい病が発病します。
私にとっては107さんのブログで、
こんな大物を見せられる瞬間が、
“逢魔が刻”です。ハイ

オードリー 07-06-13 (水) 22:45

楽しまれたようで、なによりです^^。
魔とて礼をわきまえる者には、ひいて試しをかけますよ^^。
貴方が魚達とかけひきをするように。。。。
魔も貴方の心とね。。。
>逢魔が刻に対する漠然とした畏れからだけではない直感が働いたためだと言っておこう。
>今日はそれでいい。充分。いい一日だった。
見ることも、聞くことも、手に取ることもできないが、感じたでしょう。。。。と。
                 
楽しみのあとはメンテナンスもお忘れなく^^。

107 07-06-14 (木) 0:56

△ 森の音さん
いやはやどうも、失礼しております(^ ^;
今年のこんなのが続くのは、ホントに稀なことで・・・
例年はもっと細か〜くやっております。
今年は異常。なんかあるんじゃないかと、怖くなります(笑
△ オードリーさん
有難うございます〜^^
ええ、釣りのときだけに限らず、普段から魔と心の内でせめぎ合いをしております・・・
が、自然の中で感じるそれはよりピュアで鮮明です。ゆえに、畏れが。
やっぱり突然、バリビリベリボリ・・・と服を破って狼男に変身してしまいそうで(笑

Comment Form
Remember personal info

Trackbacks:1

Trackback URL for this entry
http://blog.studio107.jp/2007/06/159.html/trackback
Listed below are links to weblogs that reference
逢魔が刻 from 107@BLOG
pingback from 107@BLOG · デジカメ新調 10-07-08 (木) 15:47

[…] で、先日の釣りから晴れてデビュー。暗い中フラッシュなしでサカナが撮れたのも、2枚目の写真のサカナや水、砂、石の質感がよく出ているのも(自画自賛^ ^;)、この新しいデジカメ […]

Home > 釣りにまつわるよもやま | 2007年の釣り > 逢魔が刻

Search
RSS Feeds
Meta

Return to page top

Get Adobe Flash player