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愛宕山頂にて

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子どものころ、よく山に登った。
といっても子どものことだから、そんなに本格的な登山ではない。今で言う「山歩き」程度のものである。
親父が好きで、よく連れて行ってもらった。京都周辺の最高峰・愛宕山や、琵琶湖西の比良連山の最高峰・武奈ケ岳など、1000メートル前後の、登山ルートのしっかりした山ばかりだ。

春、山の雪が融けると、まず愛宕山(標高924m)に登る。当時は北野天満宮近くの西陣の下町に住んでおり、京都バスに乗って清滝というところまで行き、そこから山に登っていた。愛宕山の山頂には愛宕神社という有名な神社があって、かの明智光秀が本能寺で織田信長を討つ前にここに参って、急襲の成功を祈願したと伝わる。歴史小説好きな親父が、登りながらそんなことを語ってくれた。
昨日、少し部屋を整理していて懐かしい写真アルバムを見つけたので、そこから一枚抜き取ってみた。愛宕山頂でのスナップである。ツィードのハンチングを被り、同じくツィードのニッカボッカに編み上げのゲイターと登山靴という、英国伝統のアウトドア・スタイルで身を固めた親父の姿が、現在のボクに重なって見える。ボクは自分の好みで今のスタイルを選択したつもりなのだが、それがこんなに昔の写真にすでに示されていようとはと、ただ驚くばかりだ。
このスタイルは、「そこに山があるから」の名言を遺し、1924年に人類で初めてエベレストの8000メートルオーバー到達を記録して行方不明になった英国の登山家ジョージ・マロリー以来の、山屋とアウトドアマンの伝統である(このリンク先の最下段『そして謎は残った』に、死後70余年を経て1999年に発見されたマロリーの遺体写真がある。壮絶な姿。アウトドアマンの死は、かくありたい)
ボクは、阪神タイガースのキャップを被り、半パン姿という元気な少年。お小遣いを貯めて買った登山用の丈夫な帆布製ザックを背負い、得意満面である。お揃いの編み上げのゲイターに、同じく登山靴。滑り止めのメタルの歯がグリップに仕込んであるやつだ。親父のお下がりのイギリスのテイラーメイドのツィード地ズボンを、子どもサイズのニッカボッカに仕立て直してもらったのを愛用していたのだけど、これはそうなる直前らしい。登山口で見つくろった木の枝を杖代わりに振り回しつつ、山頂まで登ってくるのである。
隣の、みすぼらしい頬被りのは2つ歳下の弟。こやつは寒がりでやせっぽちの軟弱者で山登りにはあまり連れてこられなかったので、こうして一緒に写真に写っているのは珍しい。山登りにも関心を示さなかったし、釣りにも関心を示すことはなかった。
背景は霧にかすんで見えないが、京都の町を一望できる絶景である。景色がちゃんと見えていたら、現在とは随分様子の違う京の町をお見せできた筈なのだが。
現在ボクの住むマンションの廊下から、愛宕山がいつも見えている。
こんなに近くなのに、なぜだかとても遠くへ来てしまったような、そんな心地がする。
物理的な距離と心理的な距離は、比例しないもののようだ。
遡ること30年近く前、1978年ごろの、懐かしい一枚。


Comments:16

バカボン 07-01-09 (火) 18:56

一台のコダックはどこに行ったのか。
マロリーの謎には心惹かれます。
本当は遭難しやすい下山も含めて登山。無事に帰ってきてアタック成功なのでしょうが、ピークをきわめて死んだ人にはとてもそうは言えない。マロリーはどうだったのだろう。
父上はモダンですね。やはり血筋なのでしょう。

マロニエのこみち・・・。 07-01-09 (火) 20:09

モノクロの洋画のようなオサレ〜〜なお写真ですね♪
可愛いボクちゃんたち・・・
でも、お父様は、もっと素敵♪
実を言うと、私も愛宕山には何度か登りました
でも、急な坂があって、ずり落ちそうになり、怖い思いをしましたよ(寒っ・・!
中年の常連さんたちとよく出会いましたけど、鍛えられているので、流石に登り方が違いましたね

みやび 07-01-09 (火) 23:14

日課牧歌…ニッカボッカにゲートルがこの頃の山屋の正装なら、野球帽に短パン・半ズボンが子供の正装でしょうか。絵に描いたような「昭和の元気な子供」の姿ですね。カサブタ・擦り傷だらけの膝を露出して原っぱを駆け回っていた子供の頃を想い出しました。
1978年頃だとカラーが一般的だったと思うのですが、白黒フィルムで撮影されたのでしょうか? 古い白黒写真。雰囲気が有ってとても良いですね。

Solo 07-01-09 (火) 23:52

こんにちは、むかしの父親の写真を見てあまりに自分にそっくりなので驚いたことがあります、どこの家族でもあるのですね(笑)

107 07-01-10 (水) 0:28

△ バカボンさん
マロリーに関して、ロマンは尽きませんね。
今なら富士山も登れないとされる究極の軽装で、8000メートル超まで到達した、その不屈の精神力に尊崇の念を覚えます。
親父は、若い頃は洒落者のようでした。服はほとんどオーダーメイドだったようです。
サイズが合えば着るんだけどなぁ〜(笑
△ マロニエのこみち・・・。さん
ありがとごぜえます〜♪
この写真の親父は、今のボクより少し若いぐらいかな・・・
「素敵」というお声を、伝えておきますね(笑
当時のマロニエさんは、愛宕山の山道には少し重すぎましたか・・・(失礼!^ ^;
△ みやびさん
ボクも、膝はすごかったですよ。
今でもキズがたくさん残ってます。
当時はカラーが主流でしたっけね。親父がレンジファインダーのカメラが好きで(といってもライカとかそういう高級機種ではなかったと思います)、わざわざ白黒のフィルムで撮ってたような気がします。
モノクロームの写真は、いいですよね。
△ Solo さん
血は争えないもんです(笑
つうか、DNAのなせる技って、すごい、と思いますね。
後天的に学習したことも、遺伝情報として伝わるらしいですから・・・

ひぐちあきお 07-01-10 (水) 21:28

マロリーに関しては、獏さんが「神々の山嶺」で、文字通り書き尽くしておりますが、ひと山ふた山の日本の高山とちがって、一座二座のヒマラヤやアルプスは別格ですね。ぼくも実践するつもりはありませんが、興味だけはあって、よく本を読んでます。
それにしても、ニッカボッカにキスリング。昔の定番スタイルだった姿が、今はほとんど化繊素材にとってかわって見違えるほど進歩しました。あの布製の重たいテントをひいひいいいながら背負って登ったことを思えば、今のゴアテックスシングルウォールのテントは天使の羽根のように軽いもんです(笑)。
それにしても、いい写真が残ってますね。
ぼくがオヤジと遊んだ記憶は、たった一度のキャッチボールと、海釣り、海水浴ぐらいかな。些細なことで喧嘩して家を飛び出し、故郷を捨てたようなものだから、いまから振り返っても、もうちょっといい思い出が欲しかった!
すれ違いはすれ違いのままで終わってしまったけど、今だからこそありがとうといえるような気もします。だからかな、〈フィールド・オブ・ドリームス〉の音楽を聴くだけで涙が浮かぶんだ。

107 07-01-11 (木) 1:20

△ ひぐちあきおさん
獏さんの本、すごいですよね。ボクも、本格登山はとてもとても・・・(^ ^;
そうでした、キスリング!空っぽでも、生地の重みだけでやたらに重くって。
今はもう探してもないらしいですね。
幸いに、いい写真が残っていました。
ボクも些細なことで喧嘩して家を飛び出していますので、写真も手元に持ってるのがほとんどないんですよ。実家、というものもなくなっちゃいましたので・・・。
ひぐちさんは野球少年でいらっしゃったのでしょうか。
「靴なしジョー」・・・その人生の、苦みが重なるのでしょうか。
切ないです・・・
素敵なコメントをいただき、有難うございます。

sekisindho 07-01-11 (木) 1:48

107さん、こんばんは。
新年会のせいで今回は出遅れましたが、でも良いコメント↑が続いてますよね。
書くことなくなってしまいました、と言うより気後れして書けませんけど、107さんの現在はやはりお父さんの影響下から抜け出ていない事だけは確信できそうに思えます。
頑固なほどに自我の強さのようなものを父子に感じます。

ijin7wth2 07-01-11 (木) 16:25

こんにちは。
これはこれは素敵な父上様。元気よく、おしゃれで、それが決まっています。お子さんも影響を受けて幸せです。
私の父も当時としては歯医者を志向したり、先端に憧れたようです。
帰省すると、オシャレが評判になったと聞きました。
一方で家庭に対する無責任から、尊敬は得られませんでした。
体、心、センス等人の条件が多く揃うのは難しいのですね。

teardrop 07-01-11 (木) 17:17

こんにちは。
お父様、おしゃれな方だったのですね。
子供は、知らず知らずのうちにやはり、親の影響を受けますよね。
そう言えば、私も小さい頃、父に連れられて良く山登りをしてました・・。でも、その山の頂上付近は転げ落ちそうな瓦礫の山になっていて、登ったはいいけど降りれなくて、「絶対ここは通らない!」と、泣いてしまって大変でした(;^_^A たぶん、頂上まで行ったのはその時の一度きりです。
関東にいるんだから、一度は富士山の登らなければいけないと、友人たちに言われてますが。昔の辛かった思い出を思い出したので、諦めることにします(*T-T)シュン。。。

kajino-koichi 07-01-11 (木) 20:47

いやーほんと、お父さんそっくりですねー

107 07-01-11 (木) 21:39

△ sekisindho さん
有難うございます。
「影響」がどの意味を指すのかによりますが、ボクの現在はもちろん、過去も未来も、親父の影響を抜け出すことはないと思います。それが、父子というものだと、考えます。もちろん、幼少時のいわゆる「上位自我」的な関係からは抜け出ていますが・・・
頑固なのが似たのは、困ったものです(笑
まったく、血は争えませんです。
△ ijin7wth2 さん
こんにちは、有難うございます。
昔はお洒落だったようです・・・^^
> 体、心、センス等人の条件が多く揃うのは難しい
ううっ・・・耳が、胸が痛い・・・
「天は二物を与えず」と申します。すべてが揃っている人間なんて、そうはおりません。逆に、どこかが欠けているからこそ人間として面白いのだと、かように考えますがいかがでしょうか。
「父」あるいは「家庭人」として見る場合には、もちろん厄介ですが(笑
△ teardrop さん
有難うございます。
影響は、やっぱり大きいですね。
父と娘の場合はどうなんでしょう。ボクには姉がいるんですが、それを見てる限り、いい影響より反発の方が大きいような気がします。もちろん、人にもよるのでしょうけれど・・・
富士山、ぜひに^^
△ kajino-koichi さん
似てますか!?
身内から見るのと第三者から見るのとでは違うのかもね^^

noobooboo 07-01-12 (金) 23:31

107さんへ
こんばんわ。
お父様、素敵な方ですね。似ているのですか????
107さんのイメージが監督のイメージで定着してしまっていて。笑
「そこに山があるから」とても有名な言葉ですけれど、
恥ずかしいことに、そのお名前と一致していませんでした。
見つかったご遺体・・・・言葉が出ないです。

107 07-01-13 (土) 0:11

△ noobooboo さん
こんばんは。なんだかお久しぶりのような気が。寂しかったですよ〜^^
(ボクが記事書いてないだけですが ^ ^;)
親父と似てるのでしょうか・・・肉親ですからよく分かりませんが、「監督」のサングラスを外して、ハンチングを被らせて愛想笑いをさせたらこうなるかも、とは思います(笑
「そこにサカナがいるから」とか、「そこに○○がいるから」で何にでも使えますね。ホントは、その裏にある想いは違うのですけれど。訊かれて気持ちを言葉にするのは難しいもんだと思います。
遺体について、初めてコメントをいただきました。壮絶でしょ・・・
「アウトドアマンの死は」と書きましたが、正確には「生き様は」「心意気は」という感じです。願わくば、ああいう風には死にたくありません。^ ^;

森の音 07-01-13 (土) 16:34

愛宕山といえば千日詣。
7月31日の夜に参ると千日のご利益があるという。
私も小学生のとき、父と一緒に何度か登りました。
夜なのに「おのぼりやす」「おくだりやす」と
声をかけながら行きかうたくさんの参拝者に
最初びっくりした記憶があります。
お社の階段に座って頬張った、
お袋のむすんだおにぎりは最高の味だったなぁ。
実は一昨年、ふと思い立って友人と一緒に、
千日詣してまいりました。
まったく昔と変わらない懐かしい風景がありました。
今年行かないと千日のご利益が切れるので、
今夏また行こうかななんて思っています。
昔の写真いいですね。
この写真を見て思ったのですが
私、山頂に立ったことないんです。

107 07-01-13 (土) 23:40

△ 森の音さん
ありました、千日詣。ボクは行ったことないんですが、「火廼要慎」のお札をもらってくるアレですよね。
愛宕山頂に、京都を一望する絶景が見られるポイントがありました。今もあるかどうかはわかりませんが、いつもそこでカップヌードルと握り飯で昼食。山で食べるインスタントラーメンの美味いこと。
今夏、行かれるのであればぜひ、お立ちになってみてくさだい^^

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