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鉄砲水

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今を去ること17年前のお盆、岐阜県の山中でキャンプを張って寝ていた未明に、鉄砲水に遭った。
友人と二人で、富山から岐阜、長野の県境の山の中を、テントをかついで一週間ほどウロウロと釣り回っていたある日のことである。明け方、友人が叫び声とともにボクを激しく揺さぶるので目が醒めた。

「雨!水!早く!」
と、寝起きの耳には何を言っているのかまったく分からない支離滅裂な友人の叫び声が狭いテントに響き渡る。しかし何やら一大事の様子なので、ともかく目を開ける。夜は明けておらず、真っ暗な中に友人のシルエットが浮かび上がる。ボクが目を覚ましたのを確認すると「起きたか。撤収、撤収!早く、早く〜〜!」と、絶叫しながらテントから飛び出していった。その声を半ばかき消すように、テントの屋根にバシバシとすごい音で当たる激しい雨の音が耳に飛び込んできた。
なるほど、そういうことか、それにしてもあんなに慌てることなかろうに、と思いながら身を起こすと、体の背面がビチャビチャと音を立ててシュラフから離れた。よく目を凝らせばテントの床が水びたしになっている。一瞬、雨漏りがこんなに、と思ったのだけどすぐに間違いに気づく。水びたしではなく、水が溜まっているのだった。床についた手の、手首から先が水の中に沈んで見えないほどに。
瞬間、友人のパニックぶりの理由が分かった。昨晩、河原にテントを張って寝ていた。それまでの数日、一滴の雨も降らず、前日もうだるような暑さで雨の心配なんかまったくなかったので、風の通りがいい河原で寝ることにしたのだ。
それでも川のすぐ近くではなくて、少し離れた高いところにテントを張ったのだけど、どうやら、寝ている間に大雨となって、一気に増水してきたらしい。
ドッカ〜ン!と青白い稲妻の閃光と轟音が同時に響く。友人がまたテントに飛び込んできて「荷物はみなクルマに放り込んだから!早く!」と再び叫ぶ。ようやくコトの重大さを完全に理解できたボクは、稲妻にも負けない光速の撤収を開始した。5秒でテントのペグを抜き取り、1秒フラットで中のシュラフごとテントを鷲掴みにして丸め込む。広かった河原は一面川と化していて、さらに水が増え続けている様子。クルマもタイヤが半分水に浸かっている。撤収完了して、クルマに飛び込むと、またもやドッカ〜ンとすぐ近くの山に落雷。一瞬の青白い閃光に照らし出された河原の景色は、前日の晩寝る前に見たものとはまったく違う景色だった。「頼む、かかってくれ!」と悲痛な叫び声を上げながら友人が大急ぎでエンジンをかけ(年代モノのポンコツのセダンに乗ってきてたのだった)、運良くすぐにかかってその場を脱出し、林道まで一気に駆け上がってようやくひと心地つくことができた。
友人はボクより先に気がついて目を醒まし、みるみる増えていく水位に驚き慌ててボクを起こそうとしたのだけど、いくら叫ぼうとも揺すろうとも一向に起きる気配がなかったらしく、それでさらにパニックになったそうだ。ボクが起きるころには、寝ているボクの耳の横あたりまで水位が上がってきていたらしい。そうか、それはすまなかった、オレは一度寝たらなかなか起きないのが特技なんだよ、と軽口を叩いてはみたものの、すぐに思い直して、ホントに有難う、と素直に付け加えておいた。
それから後も度々、釣りの現場で鉄砲水の出る現場に居合わせているが、この時の経験のおかげで危険を予め回避することができて助かっている。渓の上流の山に真っ黒の雨雲がかかっていて、それから下流側に向って雨がやってくるような時には特に注意が必要だ。さらに、枯れ葉や木々の切れ端などが流れてくるとほぼ確実に急激な増水になる。一度、雨の夕マヅメに釣りをしていて、これらが流れてきたので大急ぎで渓から上がったことがある。そういうときに限って尺モノの連発なんかするものだからなかなか思い切れないのだけど、普段は滅多にないそういう現象こそ異常の前触れなのだ。渓から上がってクルマに戻り着替え終わって渓を見ると、すでに河原いっぱいに濁流が流れていた。
自然は、見た目にはとても美しい。静かな時には人間を優しく癒してもくれるが、反面、気まぐれな恐ろしさを併せ持ち、時に牙を剥いて襲いかかってもくる。自然の中で遊ぶということは、そんなに生易しいことではないのである。
毎年この時季になると思い出す、かなり苦く、しかし有難くもある記憶である。


Comments:16

sekisindho 06-08-18 (金) 0:54

107さん、こんばんは。
文章がとてもお上手なことは判っていたのですが、今日の記事のように実際に経験されたことを、経験に基づいて書かれると数段の迫力があります。
自然の脅威そして驚異、人知の及ばない意外性と凄味がありますね。
そんな経験をうまく生かして、自然と喧嘩せずうまくお付き合いされているようですから安心ですが、決して油断めされませんよう。
それにしても、その時のご友人、感謝、感謝ですね!

107 06-08-18 (金) 1:27

△ sekisindho さん
こんばんは。有難うございます。
いえ、思いつくままに書き散らした雑文です・・・
最近、無防備で自然の中に入っていって事故に遭う人が増えているような気がします。ボクもこういう経験をしたからこそ言える部分でもあるのですが、自然を侮ったら痛いメに遭う、ということを、自分の命と引き換えに学ぶようなことにだけはなってほしくないものです。
油断大敵、肝に銘じておきます。
友人には感謝しております。
・・・残念ながら今は疎遠になってしまいましたが(笑

マロニエのこみち・・・。 06-08-18 (金) 1:35

『枯れ葉や木々の切れ端などが流れてくるとほぼ確実に急激な増水になる。』
そうなんですか〜〜!
私が、こういう体験をすることは、今までも、そしてこれからも、
たぶんないとは思いますが(笑)一応、心得ておきましょう・・・
勉強になりました
それにしても、17年前ということは、4歳の頃のお話ですか?(笑)

プリュム 06-08-18 (金) 7:38

いやぁーーー、自然とは恐ろしいですね
107サン
災害は数多く発生するだろうし
被害も防ぎようもないかもしれない
天災は人間の英知のおよぶところではないのです
それゆえに
ふだんから自然に対しては敬意の念が必要だと私は思います
人間の傲慢な振る舞いに対しては
それなりに災害として降りかかることだからです
また
そういう謙虚な気持ちをもつことによって
防ぐ事もできる災害もあるのではないかしら?

107 06-08-18 (金) 10:27

△ マロニエのこみち・・・。さん
そうなんです〜
枯れ葉や枯れ枝など河原や土手の斜面に落ちていたものが運ばれてくるというのは、通常よりも水位が上がってきた、ということを現しています。なのでそういうのがたくさん流れてくるとまず間違いなく急に増水する、ということになります。
そう、17年前は4歳でした・・・(笑
なにしろ早熟だったもので(爆

107 06-08-18 (金) 10:40

△ プリュムさん
恐ろしいですね〜
確かに集中豪雨それ自体は「天災」ですが、被害を大きくする一因に、自然の法則を無視した人為的な河川改修や水源地の開発(森林伐採や杉の植林)があったりします。コンクリートで直線的に固められ水路と化した川は、増水による圧倒的なパワーと水量を減衰することなく下流へ伝えていきます。あるいは保水力のない杉などの植林された針葉樹林は、降った雨をほとんど蓄えずにそのまま川へと流してしまいます。
これらは人間が自己の利益だけで自然を破壊したツケを、自然からそのまましっぺ返しされている、いわば「人災」だと言い切っても過言ではないと思います。そのことをおっしゃっているのですね。
ヒトは水とは切っても切り離せない生活をしているのですから、治水・利水、いずれにおいても、おっしゃる通り自然に対する謙虚な気持ちと、冷静で客観的な分析が必要です。
コンクリートはもう要らないです。

プリュム 06-08-18 (金) 18:35

そーなんですよ、107サン
ニュージランド行かれてご存知かとは思いますが
そのところは
この国はシッカリしていると感心した私です
ガードレールは無いし
川も自然のまま、流れるままにしているから
蛇行はするは中州ができるは
その余裕をもって街も作られています
江戸時代の人々はコンクリートもないのに
自然を治める知恵をもった人々でした
自然派は自然で治めると
どうしても起きる災害もありますけど
最小限にする知恵もあるはずです
おそまつさまでした

107 06-08-18 (金) 19:50

△ プリュムさん
よくご存知ですね^^
ホントに、ニュージーランドはいい国です。
お金があれば、移住して羊でも飼ってみたいなと思ってるのですが(笑
最近は河川の護岸を自然のものに近い形でやるような研究がアメリカでも進んでいるようです。
未だ前世紀の遺物のような工法論を振りかざしているのは、自己の権益に必死ですがりたい国交省の役人どもとそれに癒着した生コン業界と見えます。土建屋も淘汰の時代になってきていますから、いち早く新しい自然工法を学習すれば生き残っていけるのにと思うのですがね〜
そういう発想の転換がいつまでたっても見られないのは、困ったもんです。

みやび 06-08-18 (金) 20:16

恐怖体験ですね。河原でのテント泊は危険ですねぇ。
それにしても、水でひたひたになっても目を覚まさない107さんって・・・

107 06-08-18 (金) 21:00

△ みやびさん
どうもです〜^^
そうなんです、なかなか起きないのが困ったものでして・・・
ちなみに、いつでもどこでも「のび太寝」ができるのも自慢です(笑

Solo 06-08-18 (金) 21:19

うーん、記事もきになりますがその写真がもっと・・・
涼しげですね、ここ最近本当に暑い日が続きましたから心が癒されます、こういう写真を見てしまうと心はもう9月の連休へ・・・

107 06-08-18 (金) 21:38

△ Solo さん
9月が待ち遠しいです・・・
北海道も今年はかなり暑いようですね。
こっちももう、暑くて暑くて・・・
早く涼しくなってくれませんかねホントに〜〜

JIMO 06-08-19 (土) 11:06

鉄砲水、怖いです!!
毛虫も熊も浮石も高巻きも怖いけど、これがいちばん怖いです。(笑)
幸いまだ出会ったことはないけれど、
いつも逃げ道を確認し、流量の変化や音や上空に気をつけながら釣りしてます。

107 06-08-19 (土) 12:34

△ JIMO さん
怖いです。
なんか、「鉄砲水」とか「土石流」とか、水かと岩石の比率によって呼び方が違うとかの決まりがあるみたいで・・・
幸い、土石流は身近では見たことありません。
台風でそちらは大変では?
またしばらく渓が使い物にならないでしょうね・・・
お察し申し上げます。

ワタシ。 06-08-20 (日) 2:33

こんばんは、お邪魔してます。
それにしても・・・凄い経験をお持ちです。
ご無事でよかった(^。^)
そうか、木々の切れ端や木の葉が流れてきたら要注意なんですね。
勉強になります〜。
ワタシも、若かりし頃には台風通過直後の海へ行き、波乗り板を抱えたまま流され続け、ややしばらく岸にたどり着けなくなった経験があります。
自然相手だからこそ絶大な魅力がありますけど「己を知る謙虚な気持ち」がないと命に関わりますよね。
本当に自然の力はモノ凄いと感じますです。
は〜・・・それにしても凄い迫力・・・。

107 06-08-20 (日) 10:49

△ ワタシ。さん
を。ワタシさんサーファーでしたか。
何回か、波の荒い冬の日本海でやったことあります。
が、あまりの水の冷たさと、何よりボクの波乗りのセンスのなさに嫌気がさして、やらなくなりました(笑
波乗りを続けている友人は、ワタシさんと同じように台風直後の海に出かけていくようです。恐ろしいですね〜
そうです、自然の中では人間は小さく無力です。
その基本を知らずに、自然を侮っていると痛いメに遭いますね。
いい経験をさせてもらったと思ってます。

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