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山の友人たち

渓の山桜
北陸の山に山桜が咲き乱れる頃になると、釣りの虫がウズウズと動き出す。雪代が落ちて、いっせいに虫のハッチが始まる、ベストシーズンの幕開けのサインである。
僕のホームグラウンド、北陸の渓には多くの自然が残されている。ご多分に漏れず開発の魔の手は急速に伸びつつあり通い慣れた名渓のいくつかは潰れてしまったが、それでも未だ手つかずの自然が多く残されている稀少な地域であることは間違いない。その理由のひとつには、地盤が不安定なガレ山が多いことや、 1,000m、2,000m級の高山から一気に海岸線へと駆け下る特有の地形、地勢があることが挙げられるだろう。あるいは修験の霊峰、白山があり、その周辺はさすがのゼネコンも開発に遠慮がちだというウワサも聞いたことがある。いずれにせよ、大いなる自然とそこに暮らす野生動物の営みを、たとえそのほんの一部分にせよ垣間見ることができるというのは、現在の日本においては大変な贅沢であろうと思う。

獣類ではキツネやタヌキ、イタチにノウサギ、イノシシにシカ、さらには天然記念物のニホンカモシカなど、釣行の度にいずれかが目の前に現れて目を和ませてくれる。間近に見るニホンカモシカはその不敵な風貌に筋肉質の体躯とが相まってド迫力モノである。鳥類ではヤマセミ、カワセミ、名前はわからないがキツツキ系の珍しそうな鳥や様々な種類の野鳥など、数多く見受けられる。夜明け前に現場に到着し、車のエンジンを切った直後に車内に流れ込んで来るあの何とも言えない静寂の中に、遠くにこだまする「ケッケッケッケッケッケッケッ」という鳴き声を聞くと、「ああ、釣りに来たのだ」と改めて実感が湧くものだ。

昆虫類も豊富で、初夏から仲秋にかけての季節にはオオカマキリ、ウマオイなどの里山で見かけることの少なくなった少々珍しい種類はもちろん、マツムシの鳴き声も時々耳にすることができるし、渓を遡行しているとプ〜ンと甲虫類の好みそうなクヌギの樹液や腐葉土の何ともいえない濃厚な匂いがする場所があり、見るともなく目をやると、いとも簡単にノコギリクワガタやヒラタクワガタを見つけることができる。そんなところで真剣に探せばオオクワガタなんかも見つけられそうな気にもなるのであるが、二者択一の選択を5秒ほど考え込んだ後、もちろん、改めて目の前のポイントへのフォルスキャストを開始するので、未だにオオクワガタにはお目にかかったことはない。

ツキノワグマ
これは岐阜県上宝村近辺にある「クマ牧場」のツキノワグマ。サル山ならぬクマ山みたいなところに集団で放り込まれていて柵がめぐらせてあるのでまったく怖くないが、彼らには酷な環境であろう。もっとも、ここで生まれ育ったものかどうか完全に適応して、芸をすることで客からエサ(せんべいみたいなの)を投げ入れてもらうことに執念を燃やすものも多くいた。野生を剥奪された野生動物ほど、見ていて切なくなるものはない。
中にはあまりお目にかかりたくない有難くないのもいる。その代表はツキノワグマ。昨年、一昨年と、釣行の度に同行のメンバーの誰かが遭遇したことがある。20m程度離れたところでこちらが先に見つけたのもあれば、尺イワナを釣って喜んでいたら目の前に土手の上から子グマが足を滑らせて転げ落ちてきた、なんていうのもある。あまり立て続けに遭遇が続くので、メンバー全員、熊鈴を腰にぶら下げ、例の「ピュ〜〜〜、パァンッ!」と音のする打ち上げ花火をバッグに忍ばせてびくびくしながら渓を歩いたものだ。しかしそれもある日の釣行で、ある友人が独りで入渓した際に、数10m先の川端に黒々とした中型のクマが水の中を覗き込んでいるのに遭遇して思いきり鈴を打ち振ったにも関わらず、クマに素知らぬ顔で無視され、手をぱんぱんと打ち鳴らしたり「こら〜っ」と叫んでみたりして、ようやく、非常に面倒くさそうな顔をして友人の方をじろりと一瞥し悠々と去っていったという話を聞くに及んで、できるだけ単独での入渓は避けよう、というごく当たり前の結論に達したのである。

そもそも、人の手の入っていない渓の上流域というのはその地域に暮らすクマたちの生活圏であり、それぞれがきちんと縄張りを決めて相互に不干渉の原則の下にバランスを保って生活をしている、いわば彼らの自宅なのである。クマにしてみれば彼の自宅のダイニングやリビング、洗面所やトイレに他の生物が土足でどかどかと侵入していることになるのであって、普通ならばむしろ怒って当然であり、逆の立場でボクらなら「こら〜!」と怒鳴って追い払うところを、「まあ好きにしろや」という態度で悠然と立ち去っていくクマの方がヒトより遥かに度量が大きいのではないかとさえ感じるのだ。だから彼らの生活圏にお邪魔する際には、「こちらが侵入者である」という大原則を常に心の隅に留めておくこと、気配を感じたらそれはクマが無用な争いを避けるため予め警告してくれているのだと解釈し、いくら垂涎のポイントが目の前にあろうができる限りすみやかにその場から立ち去ること(その際「お邪魔しました!」との一言を忘れずに)、この2点を実践することにしている。その甲斐あってかどうか、今年はまだ一件も遭遇がない。

有難くないもののその2は、マムシ。天然イワナのいるところクマとマムシは3つセットでいるのが当然だと考えている。逆説的に、クマもマムシもいないようなところにいるイワナは天然イワナではない、と極論したいくらいだ。渓の急な斜面を薮コギしてゼエゼエ言いながらやっとの思いで林道に出てみたらマムシが数匹とぐろを巻いてこっちを見ていた、なんてのは普通である。しかし、こちらが彼らを驚かせたりしない限り彼らから理由もなく攻撃してくるものではない(秋以外は)、という経験則上の安心感があるものの、やはりとぐろを巻いて長い舌をチロチロやっているのを見ると何かしら不気味であることには違いない。幸いボクはそれほど長くてニョロニョロしたものに拒絶反応がないため、じっくり観察したりにらめっこをしたり、子マムシには竿先でちょんちょんとつついて「林道に横たわってると車に轢かれるぞ、あっち行け!」などとからかってみたりして遊ぶこともある。

NZの釣り
ヘビではないが、時としてヘビと見紛うばかりの姿態を見せるイワナ。ボクのバカ足に合うシューズは29cmなのだが、それを上回る全長のメスイワナ。リリースした後もボクの足元から離れないでくっついているので、勝手に「これはきっとメスに違いない」と断定させていただいた。
しかしながら世に「ヘビ嫌い」という人は少なからずいて、彼らと釣行する際には大変面白いのでいつも興味深く観察させてもらっている。普通に遡行していればまず見つけることはないだろう、という場所にいるのを鵜の目鷹の目、きょろきょろと目を凝らしてわざわざ発見し「ひぃ〜」とか「うひやぁ〜」とか声にならない声を上げ、一気に数メートルは跳び下がる。渓から土手を這い上っているときに前を行く「ヘビ嫌い」氏がヘビを発見して無言のまま上から降ってくる。あるいは薮コギの途中、足下に発見して「うへほひはへほ〜〜」などと意味不明の叫び声を上げながら、両足をガニ股に開きやや中腰気味で両手を天高く突き上げて、小躍りしながら跳び回る。阿波踊りか新種の盆踊り、といった具合だ。見ているこちらとしてはそれらの姿態のあまりの滑稽さに遠慮なく爆笑させてもらうことにしているのだが、「ヘビ嫌い」氏は爆笑するボクをうらめしそうに横目で睨みながらそれでも何も恨み言を言わずにボクの背後に回り込んでヘビから隠れようとする。読者諸氏、釣り仲間に「ヘビ嫌い」氏がおられたら次回釣行の際はぜひじっくりとご観察あれ(読者の中に「ヘビ嫌い」の方がおられたらさぞお怒りかもしれないが、何とぞご容赦を!)。

まあ、かくいうボクも大のニガ手がある。お化け。

特に霊感が強いとかいうことではなく、枯れ尾花を横目で発見してお化けに違いないと思い込み決してそちらの方を直視できない、というタイプのただの恐がりなのだ。いい歳をして誠に恥ずかしい限りである。昼なお暗い渓谷の谷間、しかも両岸はうすら寒そうな杉林、というのが最も避けたいパターンで、もしこういうところに独りで放り込まれたら、それはもう釣りどころではない。気もそぞろにびくびくしながら背後を振り返り振り返り、早々に車まで走り戻ることだろう。同行者がいてくれるにしても決して離れないようにぴったりと後を追うか、できれば先行させていただきたい。「後ろ」すなわち背後の怪しげな気配って、恐がりにとってはすごく気になるものなのだ。そういう渓の景色とそこで釣りをする自分を想像するだけで背中を寒気が走る。・・・・・はああ〜くわばらくわばら!書かなきゃよかった。今日はこの辺で勘弁していただくことにしよう。

*ブログを始める以前、本体HPに書いていた散文です。2010年1月にブログに転載しました。

 
 


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[…] らいだから、山ではクマはすぐ身近にいる動物だと感じる、いわば「山の友人」である(→参照)。ヒトからのプレッシャーが少ない渓の上流部に棲むクマは、実に優雅で誇り高い、ま […]

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